退職願と退職届の境界線:正しい書き方と提出マナーの教科書

退職願と退職届の境界線:正しい書き方と提出マナーの教科書

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📅 作成日: 2026年01月26日
✏️ 更新日: 2026年01月26日
転職活動が無事に実を結び、新しいステージへの切符を手にした後に待っているのが、現職への幕引きという重要な儀式です。その際に必ず必要となるのが、退職の意思を形にする書類です。多くの人が、退職願と退職届という二つの言葉を耳にしたことがあるでしょう。しかし、これら二つの書類が持つ法的な意味合いや、提出すべきタイミングが根本的に異なることを正確に理解している人は意外と少ないものです。

2026年の現代においても、デジタル化が進む一方で、退職という人生の節目においては依然として紙の書類による提出を重んじる企業が少なくありません。この書類一つで、あなたのプロフェッショナルとしての最後の一歩が、円満なものになるか、あるいは不必要な摩擦を生んでしまうかが決まります。この記事では、退職に関する書類の書き方から封筒への入れ方、提出のタイミングに至るまで徹底的に解説します。

退職願と退職届の決定的な違いとは

まずは、最も基本でありながら最も混同されやすい、それぞれの書類の定義と役割について整理しましょう。これらを間違えて提出してしまうと、自分の意思が正しく伝わらなかったり、思わぬトラブルに巻き込まれたりする可能性があります。

退職願:合意を求めるための願い出

退職願は、その名の通り、会社に対して退職させてほしいという願いを伝えるための書類です。これは労働契約の解約を申し込むものであり、会社側がこれを承諾することによって退職が確定します。

最大の特徴は、会社側が承諾する前であれば、原則として撤回が可能であるという点です。そのため、まだ退職日などが確定しておらず、上司との交渉の余地を残している段階で提出するのが一般的です。波風を立てずに、まずは誠意を持って相談したいという姿勢を示す際に適しています。

退職届:確定した意思の通知

一方で退職届は、すでに退職することが確定した後に、その事実を事務的に通知するための書類です。これは解約の通告であり、提出した時点で一方的に労働契約を終了させる効力を持ちます。

退職届は、原則として提出後の撤回ができません。強い決意を持って退職を宣言する場合や、すでに退職交渉が完了し、事務手続きとして会社から提出を求められた際に作成します。ドラマなどで上司の机に叩きつけるシーンで使われるのは、こちらの退職届の方ですが、現実のビジネスシーンではそのような振る舞いは厳禁です。

辞職願との違いについても触れておきましょう

稀に辞職願という言葉も使われますが、これは主に役員や公務員、あるいは雇用期間の定めのない労働者が、会社側の承諾を待たずに一方的に職を辞する場合に使われる言葉です。一般的な会社員であれば、退職願か退職届のどちらかを選べば間違いありません。

💡退職に関する書類の三つの違い ×
退職願は合意を前提とした申し出であり、承諾前なら撤回が可能
退職届は確定した事実の通知であり、原則として撤回は不可能
提出の優先順位は、まず退職願で相談し、確定後に退職届を出すのがマナー

2026年版:失敗しない退職書類の書き方マナー

書類の内容そのものは非常にシンプルですが、だからこそ書式や言葉遣いの一つひとつに、あなたの品格が現れます。パソコンで作成することも増えていますが、円満退職を目指すのであれば、今でも手書きによる提出が最も丁寧であるとされています。

必要な道具の準備

まずは、白の便箋(B5またはA4)と、黒のボールペンまたは万年筆を準備してください。便箋は罫線がない無地のものが最もフォーマルです。消せるボールペンは、公的な書類には不適切ですので、必ず油性または水性ゲルインクのペンを使用しましょう。

縦書きで作成するのが基本の型

退職書類は縦書きで作成するのが日本のビジネス慣習における王道です。右側から順に、以下の要素を配置していきます。

💡退職書類を構成する六つの要素 ×
一行目の中央に退職願または退職届と明記する
二行目の一番下に私事、または私儀と書き始める
退職の理由を、一身上の都合によりと記載する
退職を希望する、あるいは退職する日付を明記する
書類を提出する日付と、自分の所属部署・氏名を書き、捺印する
宛先として、会社の正式名称と代表取締役の氏名を記載する
宛先の氏名は、自分の名前よりも高い位置に来るように配置するのが、相手への敬意を示すための重要なポイントです。代表取締役の敬称は、殿ではなく、様とするのが現代では一般的で柔らかい印象を与えます。

理由の書き方について

退職理由は、詳細に書く必要はありません。どのような理由であっても、一身上の都合によりという定型句を用いるのがマナーです。会社への不満や具体的な転職先について触れることは、書類の性質上不適切であり、後のトラブルの火種になりかねません。

封筒への入れ方と渡し方の作法

書類が完成したら、次はそれを包む封筒の準備です。中身が完璧でも、封筒の選び方や入れ方が雑であれば、せっかくの誠意が台無しになってしまいます。

封筒の選び方

封筒は、白の無地で中身が透けない二重封筒を選びます。茶封筒は事務的な連絡用であり、退職のような重要な書類には適しません。サイズは、便箋がB5なら長形4号、A4なら長形3号が最適です。郵便番号の枠が印刷されていないものを選ぶと、よりフォーマルな印象を与えます。

封筒の書き方

表面の中央に、やや大きめの文字で退職願または退職届と書きます。裏面の左下には、自分の所属部署とフルネームを記載します。これらは、封筒を受け取った人が、開封せずとも誰からのどのような書類であるかを判断できるようにするための配慮です。

折り方と入れ方の手順

便箋は三つ折りにするのが基本です。まず下から三分の一を上に折り上げ、次に上から三分の一を重ねるように折ります。封筒に入れる際は、封筒を裏から見て、便箋の右上が封筒の右上にくるように配置します。

封を閉じるかどうかは、直接手渡しするか郵送するかで異なります。手渡しの場合は、その場で中身を確認することもあるため、基本的には封を閉じず、必要であればノリ付けはせずにシールを貼る程度にします。郵送の場合は、必ずノリ付けし、〆のマークを記載してください。

提出のタイミング:戦略的な幕引きのために

書類の準備ができても、出すタイミングを間違えると、円満退職への道は険しくなります。労働法規と企業の慣習のバランスを考慮した、最適なタイミングを解説します。

民法の規定と就業規則の優先順位

民法627条では、期間の定めのない雇用契約の場合、解約の申し入れから2週間で退職できるとされています。しかし、円満退職を目指すのであれば、会社の就業規則を最優先に考えるべきです。多くの企業では1ヶ月から2ヶ月前の申し出を求めており、これに従うことが、円滑な引き継ぎと良好な関係の維持に繋がります。

最初は直属の上司へ手渡す

提出先は、必ずあなたの直属の上司です。上司を飛び越えて人事部やさらに上の役員に提出することは、直属の上司の顔を潰すことになり、深刻な摩擦を生む原因となります。

まずは口頭で退職の意思を伝え、上司との面談の場を設けます。その場で退職願を提示し、相談という形で話を切り出すのが最もスムーズです。退職日が確定し、正式な手続きに移行する段階で、改めて退職届を提出するという流れが、最も美しい幕引きの形です。

2026年におけるデジタル提出の扱い

テレワークの浸透やペーパーレス化が進んだ2026年現在、ワークフローシステムや電子署名による退職手続きを認める企業も増えています。しかし、それはあくまで事務的な手続きの話です。長年お世話になったことへの感謝を伝えるという観点からは、まずは物理的な書類を準備し、直接会って、あるいはWeb会議であってもカメラ越しに書面を提示する姿勢が、あなたの信頼を最後まで守ることになります。

厚生労働省のデータと社会背景から考える退職の意義

厚生労働省の雇用動向調査によると、転職入職者の割合は近年高止まりしており、一社に骨を埋めるという価値観は過去のものとなりつつあります。しかし、一方で企業の側は、突然の退職による知識の流出や採用コストの増大に常に頭を悩ませています。

このような背景があるからこそ、マナーを守った丁寧な退職手続きは、企業に対する最大の敬意となります。あなたの整然とした書類と適切なタイミングでの申し出は、会社側があなたの決断を尊重し、応援しようという気持ちになるための環境を整えるのです。

提出の直前には、必ず以下の項目を見直してください。
💡退職書類提出前の最終チェック項目 ×
誤字脱字、特に会社名や代表者の氏名に間違いはないか
黒の消えないペンを使用し、捺印は鮮明になされているか
封筒は白の無地で、表面と裏面の記載は正しいか
就業規則に則った退職日と、十分な引き継ぎ期間を確保できているか

結びに:終わり良ければ、全て良し

退職書類を提出する瞬間、あなたの心には寂しさや解放感、あるいは未来への期待が入り混じっていることでしょう。その複雑な感情を、一枚の清らかな書面に込めてください。

退職は、決して裏切りではありません。それは、あなたが自分の人生をより良くするために下した、自律的な決断です。その決断を正しく、そして美しく伝えるために、今回のマナーを役立ててください。

丁寧な手続きを経て現職を去った人は、その後のキャリアにおいても、かつての同僚や上司からの信頼を保ち続けることができます。あなたのプロフェッショナルとしての物語は、この最後の一枚の書類から、また新しく、力強く始まっていくのです。

次の一歩として、まずはご自身の会社の就業規則を今一度開き、退職の申し出期限を確認することから始めてみませんか。期限を知ることで、逆算して準備すべきスケジュールが明確になり、心に余裕を持って次への準備が進められるはずです。