求人票に「固定残業代を含む」と書かれていると、「ブラック企業なのでは?」と不安になる人は少なくありません。結論から言えば、固定残業代があるだけで違法・ブラック企業とは判断できません。ただし、基本給や対象時間が分からない、超過分を支払わない、実際の労働時間を記録させないといった運用には注意が必要です。

この記事では、2026年時点の公的なルールを基に、固定残業代とみなし残業の違い、求人票で確認する項目、45時間という数字の意味、最低賃金の正しい計算方法、未払いが疑われる場合の対応まで解説します。

先に結論
  • 固定残業代は、一定時間分の割増賃金をあらかじめ定額で支払う仕組み
  • 実際の割増賃金が固定額を上回れば、会社は不足額を追加で支払う必要がある
  • 残業が少ない月でも、契約上の固定残業代を一方的に減額することはできない
  • 固定残業代の設定時間と、実際に残業させられる時間は別問題
  • 求人票では「固定残業代を除く基本給」「金額と時間数」「超過分の追加支給」を確認する

この記事でわかること

  1. 固定残業代の仕組みと法的な扱い
  2. 固定残業代とみなし労働時間制の違い
  3. 求人票で警戒したい記載
  4. 給与・最低賃金の確認方法
  5. 入社前の質問と、未払い時の相談先

固定残業代とは?残業代を定額で先払いする仕組み

固定残業代とは、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働などに対する割増賃金の全部または一部を、あらかじめ一定額で支給する賃金制度です。「固定残業手当」「定額残業代」「みなし残業手当」「営業手当」など、会社によって名称は異なります。

固定残業代について法律上の独立した制度が定められているわけではありません。しかし、法定の計算による割増賃金以上の金額が支払われ、通常の賃金部分と割増賃金部分が明確に区別されるなどの条件を満たせば、定額で支払うこと自体は認められています。

厚生労働省の「時間外・休日労働と割増賃金」でも、実際の労働時間から計算した割増賃金が定額の支給額を上回る場合、会社は不足額を支払う必要があると説明されています。

残業が固定時間より少ない月

例えば、毎月3万円を固定残業手当として支払う労働契約で、実際の残業に対する割増賃金が2万円だったとしても、会社は原則として約束した3万円を支払う必要があります。「残業が少なかったから」と未使用分を差し引くことは、約定賃金の一部不払いになり得ます。

残業が固定時間・固定額を上回る月

実際の時間外・休日・深夜労働から計算した割増賃金が固定残業代を上回った場合は、差額の追加支給が必要です。「固定残業代を払っているから、それ以上は支払わない」という説明は通用しません。少なかった月との差額を翌月へ繰り越し、多かった月と相殺することもできません。

固定残業代と「みなし労働時間制」は別物

求人情報では固定残業代を「みなし残業」と表現することがありますが、固定残業代と、法律上の「みなし労働時間制」は別の仕組みです。

項目固定残業代みなし労働時間制
何を決める制度か割増賃金を定額で支払う方法一定の要件の下で労働時間を算定する方法
実労働時間の把握必要健康管理などのための把握が必要
対象者会社が賃金制度として設定した労働者事業場外労働、専門業務型・企画業務型裁量労働制など、法律上の要件を満たす労働者
在宅勤務との関係在宅勤務でもルールは変わらない在宅勤務というだけで自動的に適用されるものではない

フルリモートであっても、固定残業代を支払えば労働時間を管理しなくてよいわけではありません。厚生労働省は、テレワークについても使用者が適切に労務管理を行う必要があるとしています。詳しくはテレワークガイドラインを確認してください。

固定残業代がある会社はブラック企業なのか

固定残業代の有無だけでは判断できません。毎月の賃金を予測しやすいという面がある一方、不透明な表示や不適切な労働時間管理と組み合わされると、未払い残業代を隠す手段になってしまいます。

確認すべきなのは制度の名称ではなく、次の3点です。

  1. 求人票・労働条件通知書の記載が明確か
  2. 実際の労働時間を正しく記録しているか
  3. 法定額が固定残業代を上回る月に差額を支払っているか

固定残業代が30時間分でも、実際の残業が月5時間程度で、差額計算も適切な企業はあり得ます。反対に、固定残業代が10時間分でも、打刻後の業務を求め、超過分を支払わない会社は問題です。設定時間より実態と運用を重視してください。

求人票で明示されるべき3つの項目

ハローワークなどの求人で固定残業代制を採用する場合、次の内容を区分して記載することが求められています。

求人票の必須確認項目
  • 固定残業代を除いた基本給の額
  • 固定残業代の金額と、それに対応する労働時間数などの計算方法
  • 固定時間を超えた時間外労働、対象外の休日・深夜労働などへ割増賃金を追加支給する旨

例えば「月給30万円(固定残業代を含む)」だけでは、条件を十分に比較できません。少なくとも「基本給24万円、固定残業代6万円・30時間分、超過分は別途支給」のように内訳を確認しましょう。ハローワークの記載方法は、固定残業代欄の案内でも確認できます。

名称が「営業手当」「職務手当」でも確認が必要

手当の名称だけでは、固定残業代かどうかは決まりません。営業手当や職務手当を残業代として扱うのであれば、どの部分が何時間分の割増賃金なのか、通常の賃金と区別できる必要があります。「職務手当を出しているので残業代はない」という説明だけでは不十分です。

年俸制でも超過分は必要

「年俸に残業代を含む」という説明でも、割増賃金部分が明確でなく、実際の割増賃金がその部分を上回れば問題になります。月給制か年俸制かによって、労働基準法上の割増賃金が不要になるわけではありません。

固定残業代の計算をモデルケースで確認

次の求人を例に、考え方を確認します。

月給30万円
基本給24万円
固定残業代6万円・30時間分
1か月平均所定労働時間160時間

簡略化のため、割増賃金の基礎に算入する他の手当、休日労働、深夜労働はないものとします。

基本給の1時間当たりの賃金は、24万円÷160時間=1,500円です。通常の法定時間外労働の割増率を25%とすると、1時間当たりの割増賃金は1,875円。30時間分は56,250円なので、6万円の固定残業代はこのモデル上、30時間分を上回ります。

実際の時間外労働支給の考え方
0時間契約どおり月給30万円を支給
20時間固定残業代6万円を含む月給30万円を支給
35時間35時間分の法定額65,625円と固定残業代6万円との差額5,625円以上を追加支給

実際の計算では、資格手当や役職手当など割増賃金の基礎に含まれる手当、法定休日労働、深夜労働、月60時間を超える時間外労働なども影響します。求人票だけで判断できない場合は、会社へ計算式を確認してください。

「固定残業代÷時間数」で最低賃金を確認してはいけない

固定残業代の最低賃金チェックで、よくある誤りが「固定残業代を時間数で割り、地域別最低賃金と比較する」という方法です。最低賃金は原則として、時間外・休日・深夜の割増賃金などを除いた、毎月支払われる基本的な賃金を所定労働時間で時間額へ換算して確認します。

月給制の基本的な確認式
最低賃金の対象となる月給額 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 適用される最低賃金額

固定残業代の部分は時間外割増賃金として、最低賃金の比較対象から除外します。通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与なども除外対象になり得ます。一方、名称が職務手当でも、実態が通常の労働への対価なら扱いが異なります。正確な方法は、厚生労働省の「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」で確認できます。

固定残業代45時間は違法?時間数の正しい見方

固定残業代が45時間分に設定されていることだけで、直ちに違法とはいえません。固定残業代の時間数は賃金計算上の設定であり、会社が実際に命じられる時間外労働の上限とは別だからです。

一方、36協定による時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情があり、特別条項付き36協定を締結した場合でも、年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満、複数月平均80時間以内などの上限があります。

つまり、固定残業代が45時間分だからといって、毎月45時間の残業を無条件に命じられるわけではありません。また、固定残業代を支払うこと自体は、36協定の締結・届出や上限規制を代替しません。上限の概要は厚生労働省「労働条件・職場環境に関するルール」で確認できます。

時間数が大きい求人で追加確認すること
  • 直近1年間の月平均残業時間と最も多かった月
  • 固定時間を超えた社員の人数と、超過分の支給実績
  • 36協定の通常条項・特別条項と、特別条項を使った回数
  • 固定残業代に休日労働・深夜労働が含まれるか
  • 勤怠記録とPCログなどに乖離がある場合の確認方法

求人票で警戒したい固定残業代の7つのサイン

記載・説明確認すべき問題
「月給30万円・残業代含む」だけ基本給、固定残業代の金額、対象時間が分からない
超過分の説明がない追加支給のルールを確認できない
「年俸制なので追加残業代はない」賃金形態を理由に法定の割増賃金を否定している
「能力不足で超えた時間は自己責任」使用者の指揮命令下にある実労働時間を除外している可能性
打刻後の業務や過少申告を求める労働時間の記録と実態が一致しない
高い固定時間数なのに「残業ほぼなし」固定時間を設定した理由と実績の整合性がない
求人票と労働条件通知書の内訳が違う応募時と契約時の条件が変更されている

一つ当てはまるだけでブラック企業と断定はできません。しかし、質問しても根拠となる数字や書面を示さない場合は、入社判断をいったん止める材料になります。

基本給が低いと何に影響する?

月給総額が同じでも、基本給と固定残業代の比率によって待遇の見え方は変わります。特に次の項目は会社ごとの規程を確認してください。

  • 賞与:「基本給の何か月分」と定めている会社では、基本給が低いほど賞与額へ影響します。
  • 昇給:基本給と固定残業代のどちらが増えるのかで、将来の賃金構成が変わります。
  • 退職金:基本給やポイント制など、会社の算定規程によって影響が異なります。
  • 割増賃金:基本給だけでなく、法律上除外できない各種手当も算定基礎へ含める必要があります。

「基本給が低い=必ず損」とは限りません。賞与、昇給、退職金、各種手当の計算式を含めた想定年収と実際の労働時間で比較しましょう。

面接・内定後に使える確認質問

固定残業代について質問することは、失礼ではありません。感情的に疑うのではなく、労働条件を比較するための事実確認として尋ねるのがポイントです。

そのまま使える質問例
  • 月給のうち、基本給と固定残業代の金額をそれぞれ教えていただけますか。
  • 固定残業代は何時間分で、時間外・休日・深夜労働のどこまでを対象としていますか。
  • 固定額を超えた場合の計算方法と支給時期を教えてください。
  • 配属予定部署の月平均残業時間と、繁忙期の最大時間を教えてください。
  • 直近1年間で超過分を追加支給した実績はありますか。
  • 賞与・昇給・退職金は、基本給と月給総額のどちらを基準に計算しますか。

口頭回答だけでなく、内定後は労働条件通知書や雇用契約書で確認してください。求人票と最終提示条件が異なる場合は、変更理由を確認し、納得できるまで入社承諾を急がないことが大切です。

入社後に固定残業代の悪用が疑われたときの対応

1. 労働時間と給与の記録を確認する

勤怠記録、給与明細、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則、業務メールやチャット、業務カレンダーなどを確認します。毎日の始業・終業時刻、休憩、業務内容も記録しておくと、実態を整理しやすくなります。

厚生労働省の労働時間の適正把握に関するガイドラインでは、使用者は労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録し、原則としてタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間などの客観的な記録を基礎に把握することとされています。

証拠を確保するときは、自分が適法に閲覧・保有できる資料を対象とし、顧客情報、個人情報、営業秘密などを無断で持ち出さないよう注意してください。

2. 月ごとの不足額を分けて整理する

固定残業代と実際の割増賃金は、原則として各賃金支払期ごとに比較します。残業が少なかった月の余りを、残業が多かった月の不足へ充てることはできません。複雑な手当や変形労働時間制がある場合は、自力で断定せず専門窓口へ資料を持参しましょう。

3. 社内外の窓口へ相談する

安全に相談できる職場であれば、人事、労務、コンプライアンス窓口、労働組合へ事実確認を求めます。社内相談で不利益を受ける不安がある、説明が得られない、健康への影響が出ている場合は、外部窓口へ先に相談する方法もあります。

未払い残業代の有無や金額は、契約内容と勤務実態によって変わります。本記事だけで法的結論を出さず、個別事情は労働基準監督署や弁護士などへ相談してください。

固定残業代に関するよくある質問

固定残業代があるだけでブラック企業ですか?

いいえ。制度の存在だけでは判断できません。内訳の明確さ、勤怠管理、実際の残業時間、超過分の追加支給、質問への説明姿勢を総合的に確認してください。

残業しなかった月も固定残業代は受け取れますか?

時間外労働の有無にかかわらず定額を支払う契約であれば、原則として支給されます。会社が実績分だけへ一方的に減らすと、約定賃金の一部不払いになる可能性があります。ただし、欠勤控除など別の賃金規程がある場合は契約内容を確認してください。

固定残業代が45時間分なら、毎月45時間残業するのですか?

設定時間は実際の残業時間を保証・確定するものではありません。実績が少ない会社もあり得ます。配属部署の月平均、繁忙期の最大、固定時間を超えた実績を確認しましょう。

固定残業時間を超えなければ追加支給は絶対にありませんか?

そうとは限りません。深夜労働や法定休日労働が固定残業代の対象外であれば、時間数の範囲内でも別途支給が必要です。また、賃金改定などにより法定額が固定額を上回れば不足分が生じる可能性があります。

「固定残業代なし」の求人なら安心ですか?

固定残業代がなくても、サービス残業や不適切な勤怠管理があれば問題です。残業時間、割増賃金、休日、勤務記録、募集理由などは同じように確認してください。

まとめ:総額ではなく、内訳・実績・超過分を見る

固定残業代は、それ自体が違法な制度ではありません。転職時に見るべきなのは、基本給と固定残業代の区分、対象時間と対象労働、超過分の追加支給、実際の残業時間です。

特に、「固定残業代45時間分=違法」「固定残業代を時間数で割れば最低賃金を確認できる」「年俸制なら残業代は不要」といった理解は正確ではありません。賃金計算の設定と労働時間の上限を分け、求人票と労働条件通知書を照合しましょう。

疑問に対して会社が具体的な数字と書面で説明できるかも、重要な判断材料です。月給総額の高さだけで決めず、実際に働く時間と年間で受け取る金額を比べることが、納得できる転職先を選ぶ近道になります。